『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』は文章を判断するのにもいい内容だった

『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』という本を読みました。

この本は、セミナーなどを通じて「書くことにまつわるすべて」を伝えることを生業にしている著者が、文章術の本100冊のなかから、共通に言われているポイント、ベスト40位までを紹介する本です。

と書くと、「既往研究だけをまとめた卒業論文」のような雰囲気もあるのですが(実際はかなり手がかかっていると思います)、この、著者の主観を排した潔い構成が、文章を書く人のみならず、編集者のような文章を判断する人にとってとても役に立つ本だと思いました。

文章を判断するのは難しい

私は編集者として、日々著者さんの原稿をチェックしています。明らかな誤りや誤字脱字はともかく、「この表現をこう変えたほうがいいのではないか」というフィードバックについては、何らかの基準を自分の中で持っていたり、著者に説明したりしなくてはいけません。

そのなかでよく使われるのは、『文章術のベストセラー~』の本でも紹介があった、「記者ハンドブック」だと思います。

記者ハンドブックは、漢字や平仮名の使い分けで困ったときによく参照していますが、それ以上の表現面については、何らかの明確な基準があるわけではないので、先輩社員から教えてもらった判断基準や自分の主観でフィードバックすることも多いです。

例えば、どういう内容でフィードバックするかというと

  1. 説明なく専門用語が入っているので補足してほしい
  2. 2通りの意味に取れるところがある
  3. 一文が長すぎる
  4. 読点の位置を適切に修正
  5. 話し言葉を書き言葉に(例:みたいな→のような)
  6. 漢字にしすぎているところを一部ひらがなに

といった感じですが、このうち、1~3は読者視点で読んだときに分かりにくいと感じたポイントなので明確ですが、4~6はあくまで表現の話なので「自分の好みなんじゃないか」と、指摘するのがちょっと不安になるときもあります。

たとえば6の「漢字を一部ひらがなに」について、なぜそうするかという私の認識としては「商業媒体で多く使われていてそのほうがプロっぽいから」というくらいだったのでした。

ベストセラー作家の複数の見解が背中を押す

しかし、この『文章術のベストセラー~』の3位「文章も『見た目』が大事」のなかに「ひらがなと漢字はバランス重視で」というポイントがあります。『「超」文章法』の野口悠紀雄氏など複数の著者が「漢字が多いと堅苦しく重い印象となって読みにくい」と言っているので、「漢字をひらがなにする」という提案は著者に対して堂々としてもいいんだなという自信が付きます。

「読みにくい」だけでなく、『理科系の作文技術』の木下是雄氏も「かたい漢字やむずかしい漢字は必要最低限しか使わないようにしてほしい」とあります。編集者など、人にチェックしてもらう文章って、おそらく書いてあるトピックをわかりやすく伝えたい目的ですよね。

なので、自分が「なんか漢字が多くて難しい印象だな」と受けた印象は、積極的にフィードバックしてもいいのではと自信が持てます。さきほど引用した木下氏の表現に「むずかしい漢字」とありますが、これが「難しい漢字」と原文に書かれていたときにわざわざ「むずかしい漢字」とするほどではないですが……(これは著者の表現の話)。

さらに、「1文を短くする」といっても具体的な文字数が知りたいと思う読者のために、複数の本を精査して具体的な数値を提示しているのも特徴でした。

たとえば、先の漢字とひらがなの例だと「文章のプロの意見をまとめると『漢字2、3割』『ひらがな7、8割』」とあります。1文の長さについては、「精査した結果、1文の長さは『60文字以内』が好ましい」と書かれています。

これは、文章術の本の1人の著者の主観的な意見(とはいえ、たくさんの方の文章を見てきた結果ですが)ではなく、複数の著者の意見から導かれたより抽象度の高い情報です。

自分が書くときのみならず、著者の表現を尊重しつつよりよい内容を提案していく編集の仕事をする場合にも、とても力になる本だなと思いました。

具体的に行動を起こさせる力もある

テクニックや表現の話に終止してそうなイメージもありますが、15位「とにかく書く、たくさん書く」のような、文章を書くことの習慣化を促すようなポイントもあります。

これを1人の文章術の書き手から言われるのと、本書の言葉を借りると「文章のプロたちは口をそろえて言う」のでは、だいぶ印象が違います。

そうは言ってもという人のために、具体的にたくさん書けるようになるための方法や、「これに沿って書いていけばいい」という文章の型なども紹介されています。

このエントリも、本書を読んで「やっぱり毎日更新しないとな……」と実感して更新したものだったのでした。